「ボランティア観光」という新たな道

「外国人観光客が増えて騒々しくなった」とか「外国人観光客が多くて混雑して嫌だ」というように、海外から観光客がくることをいまだにネガティブにとらえる人も少なくありません。

しかし、国際観光の場ではむしろ逆で、ボランティア観光を通じて観光客に自国の課題を解決させようという動きが出てきています。

目次

ボランティア観光とは

ボランティア観光は、無償労働を意味する「ボランティア」と、楽しみのための旅行を意 味する観光(ツーリズム )が融合したものです。
しかし、「労働」と「余暇」が融合するというと、不思議な感じがします。
なぜなら、これまで「労働」と「余暇」は相反するもの、つまり職 場や家庭での「労働」によるストレスや疲労から逃れるための気晴らしとして、「余暇」の 1 つである 観光が位置づけられてきたからです。
その意味で、ボランティア観光は余暇活動の中で労働 するという、相反する要素が融合した不思議な観光形態です。

ボランティア観光研究の第一人者である豪州の S. Wearing は、ボランティア観光 を「自由時間においてさまざまな動機に基づき、社会における物的貧困の緩和、援助、また特定の環 境の保護や社会や環境の調査などの組織化されたボランティア活動」(Wearing 2001)と定義していま す。

たとえば、欧州やアメリカの国立公園には、世界の国から自然保護のボランティアがやってきます。
彼らは自然のなかでボランティアをするために、遠い国まで何時間も飛行機に乗ってやってくるのです。
その一方で、彼らは「外国人観光客」でもあるので、ホテルに泊まり、レストランで食事をして、観光をして土産物を買って自国へ帰るのです。

ボランティア観光のメリット

ボランティア観光にはどんなメリットがあるのかというと、いくつかのメリットがあります。

まずは労働観の変化です。

近代化によって、働くことに対する労働者の主体性が次第に薄れ、労働は「主体的に取り組むもの」から「強いられるもの」に変化していきました。


しかし、参加者が主体 的に取り組む労働であれば、“余暇”の中でも十分生かすことができます。
つまり、ボランティア観光は労働に対する主体性をもう一度呼び起こし、労働と余暇の融合を 図る可能性を持っているのです。

2つ目は日常生活の利害関係から離れられるという特性です。


日常生活ではさまざまな人間関係が形成され、たとえ善意でボランティアに参加したとしても、その意図が深読みされたり、一度始めると辞められなくなったりすることがあります。
しかし、ボランティア観光では日常生活を離れているので、そうしたレッテルを気にせずに活動にかかわることができます。
日常とは違う気分転換や 自己発見といった参加者の意見があります。


また、「ボランティアを続けなければならない」という重荷を感じる必要もなく、気軽にボランティアに参加できるという点もあげられます。

3つ目は地域問題を解決できます。

受け入れ地域にとっては、優れた地域資源や人材に乏しい地域であっても、ボランティア活動の場そのものが新たな観光資源になり、地域問題の解決につながる可能性をもたらします。

一方、参加者にとっても、ボランティア観光を通じて自己実現や社会貢献といった満足感を得ることができ、両方にメリットをもたらすことになります。
ボランティア観光はホスト(=受け入れ地域)とゲスト(=参加者)の新たな関係を構築する観光形態として期待されています。

ボランティア観光の問題

もちろん、ボランティア観光を推進する上で課題がまったくないわけではありません。

例 えば、ボランティアを受け入れるには相当の準備が必要ですし、地域活性化の手段として必ずしも効率的とはいえません。
また、ボランティア観光がもたらす効果についても不確実性がありま す。

しかし、それでもボランティア観光が注目されているということは交流を通じた楽し みや刺激といった経済面以外の大きな効果が期待できるからです。
こうした多様な人びとがかかわる 場こそ「創造の場」であり、ボランティア・ツーリズムは地域再生に向けた原動力となり得るのです。

まとめ

人々を魅了する「自然」という観光資源をフル活用すれば、このような「外国人観光客を用いて課題を解決する」ということが可能になります。

暇な時間を楽しんでもらうためには、長い時間を過ごしてもらえる自然観光がきわめて重要です。

美しい自然を持っていれば、このようなスタイルの観光を実見することはきわめて安易だと私は考えています。自然やアクティビティを全面的にアピールしながら、他のオリジナリティーな観光地を紹介していくという形が理想的なのです。

参考元:
ボランティア・ツーリズムを通じた新たな都市・農村交流の可能性に関する研究

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